管理組合と保険契約
保険は、何かが起きた場合の経済的な損害を補填してくれるものです。
一戸建てに住んでいる場合でも、火災や自然災害などのリスクがありますが、マンションには、これに加えて特有のリスクがあります。
例えば、漏水の場合部屋の中に損害が出るだけでなく、階下に被害が出てしまう可能性もあります。マンションの外壁がはがれ落ちて通行人にケガを負わせてしまったなども考えられます。
専有部分に火災保険を付保するかどうかは区分所有者である個人の自由ですが、共用部分についての火災保険の加入は、マンションの管理規約によって「管理組合の業務」として定められていることがほとんどです(標準管理規約第32条[管理組合の業務]7項)。
※火災保険の新規締結や補償内容を変更しての締結は、総会での決議が必要となります(区分所有法第18条4項・普通決議)。
マンション管理組合向けの損害保険に関して、内容を確認し、管理組合にとってよりメリットの大きい保険を選びましょう。

保険に関する基礎用語
保険の内容を見る前に、保険に関する基礎用語を確認します。
| 保険金額 | いくら保険をつける、の「いくら」にあたる言葉。保険の契約金額のこと。 例えば、マンション建物に「1億円」の火災保険をつける。 |
|---|---|
| 保険価格 | 保険事故が生じることで、被保険者が損害を被る恐れのある最高評価額。現在の時価。 |
| 保険料 | 掛け金のこと。保険金と間違えることが多い。 |
| 保険金 | 事故で保険適用となり受け取れる金額。 |
| 料率 | 保険金額×料率=保険料である。 |
| 免責額 | 事故の際、事故の認定額から差し引かれる金額。 |
保険金額とは、事故が発生した場合にお支払いする損害保険金の限度額のことで、保険の対象の評価額を基準に決定します。そして評価額は、新価額(再調達価額)が基準となります。
一般的な住宅の場合は、火災によって住宅が全焼した場合、その住宅と同等なものを建てられるよう、建物の評価額と保険金額を同じに設定します。
しかしマンションの場合はRC造のような堅牢な建物で、火災により全焼するということは考えづらいため、「約定付保割合」を設定します。
保険金額=評価額(共用部分)×約定付保割合
マンションには専有部分と共用部分があるので、共用部分のみの評価額を算出しなければなりません。マンション共用部分の評価額は、一般的に壁芯基準(壁の中心部まで専有部=共用部は少ない)の場合はマンション全体の評価額の40%程度、上塗基準(壁の上塗りのみ専有部=共用部は多い)の場合は60%程度となります。
例えば、建物評価額が10億円の物件の場合、共用部分の評価額は建物評価額10億円×60%(上塗基準)で6億円になります。
そして約定付保割合を評価額の20%〜90%の範囲で評価額を設定します。例えば、付保割合を30%に設定する場合、先述の建物評価額10億円の物件のケースでは、共用部分の評価額6億円×約定付保割合30%で1憶8,000万円の保険金額を設定するということになります。
マンション向け保険の補償内容について
マンション向けの火災保険は、火災だけでなく、台風や雪などの自然災害による損害や、盗難や漏水といった日常生活リスクも幅広く補償してくれます。
基本的な補償内容
①火災、落雷、破裂・爆発
②風災、雹災、雪災
③水ぬれ
給排水設備の破損などによって発生した漏水、放水等による水ぬれをいいます。
例)給排水管からの水ぬれでエレベーターが壊れた。
④盗難
例)泥棒が侵入し共有の動産が盗まれた。
⑤水災
以下のいずれかの場合に対応
・床上浸水 ・地盤面より45㎝を超える浸水
・建物や家財など保険の目的に保険価額※の 30%以上の損害が生じた場合
⑥破損・汚損等
例)何者かが壁を汚した。
有用なオプション
・水濡れ原因調査費用
マンションでは漏水が発生した時に、設備からの漏水であっても外壁等からの雨漏り漏水であっても、原因個所得的のために多額の費用を要する場合もあります。そのため、調査費用は必須です。
・個人賠償責任保険
漏水・物の破損事故などで加害者となった場合、賠償のために突然の出費が必要となります。
特にマンションでは、給排水管の劣化により漏水が発生する可能性は高いです。
個人賠償責任保険を契約しておくことにより、加害者になった場合は保険から賠償金が支払われ、被害者になった場合も確実に補償を受けられるので、必須の保険です。
区分所有者や住民を被保険者として包括的に補償します。
・マンション共用部分(施設)賠償責任保険
建物の共用部分の所有、使用、管理等に起因する損害賠償責任を補償します。

共用部分を確認しようー壁芯基準と上塗り基準
共用部分とは、通常、エントランスホールや廊下等の「専有部分に属さない建物部分」、エレベーター設備や給水設備等の「専有部分に属さない建物の附属物」、管理事務室、集会室等で管理規約で「共用部分の範囲」としている部分ですが、各々の専有部分と共用部分の境目について、火災保険では重要になります。
国土交通省が作成した『マンション標準管理規約(単棟型)』によると、専有部分の範囲について「天井、床及び壁は、躯体部分を除く部分を専有部分とする。」と定めています。つまり、専有部分と共用部分の境目は、壁、天井、床の内側とするということで、これはいわゆる「上塗基準」と呼ばれるものです。現在は多くのマンションがこの標準管理規約を使っているので、ほとんどのマンションで該当するでしょう。
地震保険について
地震保険は、地震・噴火またはこれらによる津波を原因とする、火災、損壊、埋没または流失による建物の損害を補償する保険で、震災後の生活再建のサポートを目的として、保険会社と政府が共同で運営しています。
保険の対象
地震保険の対象は「居住用建物(住居のみに使用される建物および併用住宅)」です。
保険金額
地震保険は単体では加入できず、火災保険とセットで加入します。
地震保険金額は共用部分の火災保険金額の30%50%の範囲内で設定します。
(例)共用部分の火災保険金額10億円→3億円~5億円の範囲内で設定
ただし、区分所有者ごとに共用部分(共有持分)と専有部分あわせて5,000万円が限度となります(保険金額には土地代は含みません。)。

保険金の支払い条件と保険金の額
地震保険は、実際の修理費ではなく、損害の程度に応じて、地震保険金額の定額が支払われます。
| 損害の程度 | 主要構造部(基礎・柱・壁・屋根等)の損害額 | 燃失または流失した床面積 | 床上浸水 | 支払われる地震保険金額 |
|---|---|---|---|---|
| 全損 | 建物時価の50%以上 | 建物の延床面積の70%以上 | 地震保険金額100%(時価額が限度) | |
| 大半損 | 建物時価の40%以上50%未満 | 建物の延床面積の50%以上70%未満 | 地震保険金額60%(時価額60%が限度) | |
| 小半損 | 建物時価の20%以上40%未満 | 建物の延床面積の20%以上50%未満 | 地震保険金額30%(時価額30%が限度) | |
| 一部損 | 建物時価の3%以上20%未満 | 建物が床上浸水または地盤面より45㎝を超える浸水を受け損害が生じた場合で、当該建物が全損・大半損・小半損・一部損に至らない時 | 地震保険金額5%(時価額5%が限度) |


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